日帰り<鎌倉>トリップおすすめ度
★★★★★
<鎌倉>には、集積された歴史イメージがある。
西の都<奈良・京都>に対抗できる、東の古都。
その歴史を観光資源として活かし、年間多くの観光客を呼び込む
場所でもある。
東郷隆の妄想装置は、<鎌倉>が<鎌倉>たりえている共同幻想
としての付加価値を、彼らしい工芸的な職人芸で絶妙に料理し、
味わい深い奇譚として読ませてくれる。
自由業のよそもの夫婦から始まり、細腕繁盛記の屋台のおばさん、
ややスノッブな文化人ライター、中国から出稼ぎに来た若い女性、
元松竹映画村関係者である謎の未亡人、元旧制小学校の生徒と先生、
敗戦当日の陸軍士官と中学生などなど、
それぞれの短編ごとに、さまざまな立場の登場人物たちが、
鎌倉湘南横須賀の各地で、「逢う魔が時」、
奇妙であり、まがまがしくもある摩訶不思議な体験をする。
そのいずれもが実に<鎌倉>らしく、相模湾を囲むこの地域独特の
磁場を感じないではいられない。
といっても、オカルトでは決してないのが東郷流だ。
作品はいずれも、ぽかーんとした静かさに溢れている。
潮風と波音といにしえの記憶とがないまぜになった、
ゆったりとした時間軸。
作品世界のリズムに身を委ねて、ひととき浮世に遊べる一冊である。
もしもこの本が気に入ったら、
『そは何者』『明治通り沿い奇譚』も是非とも読んでほしい。
概要
中国からきた蓮ちゃんが、海岸でもらった不思議な貝。北鎌倉の山から訪れる奇妙な客。花が咲き乱れるお屋敷の記憶…等々、鎌倉の魅力を再発見する、新しくて懐かしい幻想短編集。(解説・内海隆一郎)
内容(「BOOK」データベースより)
材木座・光明寺の縁日で出会った江戸小物の露店商。手のひらサイズの精巧な一軒屋に心奪われた由紀は、ミニチュア作りに熱中しはじめ、やがて―(「小物細工の家」)。海岸通りにある屋台の牛丼屋には、夜毎変わった客が訪れる。中には人間だか何だかわからない客もいるようで―(「屋台の客」)など、古都・鎌倉を舞台にした奇譚9篇を収録。