蒙古軍敗北の一因が「専制的な強制によって建造された船、とくに江南軍の船は、中国人の船大工が手を抜いたといわれるほど弱かった」(p.293)というのも面白かった。そして網野さんは「この外寇が、一夜の暴風によって終わったことは、はたして本当の意味で、日本人にとって幸せだったろうか」「不徹底な結末は神風という幻想を遺産としてのこし」「七百年前の偶然の幸せに、つい五十年まえまで甘えつづけていた」のだから、と疑問を呈する(p.295)。
蒙古襲来時の執権、時宗は夭折したが、その原因は有力者安達泰盛と平頼綱の対立による心労ともいわれている。時頼の「撫民」政策を強力に推し進めようとした安達泰盛は「弘安の徳政」と呼ばれる政治を行おうとするが、鎌倉武士お得意の内輪もめによって、平頼綱によって滅ぼされ、またその頼綱もヤル気のなさを嫌われて殺されてしまうという血塗られた歴史の中で、得宗独裁が強まる。しかし、それは権力者の弛緩を生み、やがて14代高時で滅亡を迎えることになる。
通史というより著者の中世論が炸裂した一冊おすすめ度
★★★★★
かつて小学館で出版された「日本の歴史」シリーズ(全32巻)の中の
1冊を独立出版したもの。元寇前後から鎌倉幕府滅亡、後醍醐期迄が主な
範囲。社会構造や権力絵図は勿論、精神的な「形而上学」のレベルで大きく
転換を見せた時代を取り扱っている。
まず言っておくべきことは、読者が中世史をこれから学ぼうとしており、
概論的な通史を期待しているならば、本書は全くもって向かないだろうと
いうことだ。
なぜなら、教科書的な基本的事項や、従来の通説位は、ある程度わかって
いるという前提で書かれているからだ。全編にわたり著者自身の中世論で
彩られた一冊である。一般的概論ならば、古くなったが中央公論「日本の
歴史」シリーズの方をおすすめする。
巻頭いきなり「飛礫」に関する論考ではじまる。著者の著作になじみのな
いものには唐突に感じられよう。言うまでもなく彼の近親である中沢厚の
『石にやどるもの』『つぶて』を意識してのものだ(ちなみに中沢厚の息子
が宗教学者の中沢新一であることは有名)。宮本常一も関係した常民文化研
究所にも関わっていたこと。定住的・農耕的な史観に対置する形で、周縁
的な剥き出しのエネルギーの行方や、人々と場の重層的な繋がり、とりわ
け、15世紀以降、顕著に蔑視され始める職能民と天皇制との関わりへの
眼し。本書でも「網野史学」がいかんなく炸裂している。
元寇によって変貌していく社会おすすめ度
★★★★☆
元寇の時期に、農業民と非農業民とが分裂し、貨幣経済が発展し、という過程が描かれていく。この時期にはまだ、農業社会はそれほど洗練されておらず、悪・・・強力な力を持ったものに対する接頭語が畏敬の念さえもたれていた時代であった。そうした、時代へとわけ入っていく営為は知的なスリルを味あわせてくれる。日本の近代以前の事情を知るためにも重要な一冊。
概要
二度にわたるモンゴル軍の襲来は、鎌倉幕府にとっても、御家人・民衆にとってもこれまでにない試練だった。幕府内部の権力争いは激化し、天皇とその周辺も幕府打倒へと動いた。農村・漁村・都市の分化など、社会も大きく動いていた。
古代から中世にかけて、「遍歴する非農業民」の存在を重視する著者が、新視点で切り込んだ新しい中世像。
内容(「BOOK」データベースより)
二度にわたるモンゴル軍の来襲は、鎌倉幕府にとっても、御家人・民衆にとってもこれまでにない試練だった。幕府内部の権力争いは激化し、天皇とその周辺も幕府打倒へと動いた。農村・漁村・都市の分化など、社会も大きく動いていた。古代から中世にかけて、「遍歴する非農業民」の存在を重視する著者が、新視点で切りこんだ新しい中世像。
出版社からのコメント
モンゴル軍の襲来は、鎌倉幕府内部の権力争いを引き起こし、天皇とその周辺も幕府打倒に動きはじめた。そのとき北条時宗は?